久しぶりに工業製品のタッチパネルソフトを設計しました。最後に担当したのは、部署異動する前の3年前。正直、時間の流れの早さに驚いています。
普段は、製造や水処理の現場で使われる装置を設計しています。機械、電気、ソフトと幅広く担当していますが、「会社として設計プロセスがしっかり体系化されているか?」と聞かれると、胸を張って「はい」とは言えないのが実情です。
自動車部品設計と装置設計、プロセスの大きなギャップ
前職では自動車部品の設計をしていました。そこでは、企画から量産評価まで、実に3年もの歳月をかけて厳密なプロセスを踏んでいました。
前職:自動車部品設計のプロセス
- 企画: 市場調査、設計構想、コスト・競合分析
- 設計1: 図面・3Dモデル、リスク分析、強度計算
- 設計2: 試作、評価試験、製造工程検証
- 量産評価: 量産品試験、最終承認
この流れだけで、約3年。
一方、現職の装置設計では、以下のフローで最短2か月で完成させることもあります。
現職:装置設計のフロー
- 構造設計: フローシート作成、機器選定
- 製品設計: 配置検討、外形図作成
- 見積・納期確認
- 受注
- 正式図面・仕様書(必要な場合)
- 製品確認・検査
- 試運転・取扱説明会
承認プロセスがあるのは、フローシート・外形図・見積書くらい。その他はほぼ自己判断です。
このスピード感は素晴らしいですが、同時に大きなリスクも抱えていると感じています。
一番危うい「ソフト設計」の現状
特にモヤモヤしているのが、ソフト設計です。PLC(装置の制御用コンピュータ)やタッチパネルのプログラムは、完全に**「設計者まかせ」になっています。承認フローがないため、極端な話、「壊れるようなプログラムを書いても誰も止められない」**状態なのです。
本来、ソフトも以下のV字モデルのような流れを踏むべきです。
要件定義 → 基本設計 → プログラミング → 単体テスト → 結合テスト → 総合テスト
しかし、現実は「なんとなく作って終わり」がほとんど。 さらに、タッチパネル画面のUI設計も感覚頼みです。
- 「このボタンはここに置けば分かりやすいだろう」
- 「アラームの色は赤にしておけば目立つだろう」
といった根拠の薄い判断でUIが作られています。
また、I/Oリストやタイミングチャート、画面遷移図といったドキュメントも作らないため、後で見返したときに**「どんな意図で作ったか」**が分からなくなります。
この状況、どう変えていくべきか?
今の状況は「普通」ではありません。むしろ、非常に危険な状態だと私は考えています。
特に、以下3つの課題を解決する必要があります。
- 承認フェイズがないのは「普通」ではなく危険である
- ソフト設計にも要件定義〜テストまでの流れを整備する
- UI設計には人間工学やユーザビリティに基づいた指針が必要
当社のような上場企業であれば、本来はISO9001や内部監査の観点からレビュー工程が設けられるのが一般的です。現状は**「属人化リスク」**が大きすぎるため、最低限の仕組みを整える必要があるのです。
まとめ
- 今の装置設計はシンプルすぎてリスクが大きい
- 機械・電気はまだ承認があるが、ソフトは完全に属人化
- ソフト設計にも要件定義・設計・テストの流れとUI指針が必要
- このリスクを解消し、仕組みを整えるのが自分の役割だと考えている
同じように短納期で設計を進めている方も多いと思います。もし「ソフトやUI設計でリスクを感じる…」という方がいたら、まずは最小限でもドキュメントや設計フローを整えてみてください。少しの工夫で、安心して設計を進められるようになりますよ。
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